灰本クリニック

ローカーボと血液のコレステロール

投稿日時:2017年11月08日

NPO法人日本ローカーボ食研究会代表理事
灰本クリニック 灰本 元

1.日本人のコレステロール

 読者の皆様もすでによくご存じのようにコレステロールには動脈硬化を悪化させる悪玉(LDL)コレステロールとそれを予防する善玉(HDL)コレステロールがあります。悪玉コレステロールは細胞膜の成分なのでこれが減りすぎると癌死が増えることが大規模な研究からわかっています。

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悪玉とは臨床医が勝手に名付けたのであって、名付けられたLDLコレステロールにとってはたいへん迷惑な話です。癌予防からみるとLDLコレステロールは決して悪玉ではありません。
 皆さん、悪玉コレステロールはどの内臓の動脈硬化を悪化させるのでしょうか?すでに他の病院からコレステロールを下げる薬を処方されてそれを飲んでいる患者さんが当院へ初診で来たとき、私がそのような質問を投げかけるとほとんどすべての患者は「動脈硬化の予防」と応えてくれるのですが、それでは「どの内臓の動脈硬化ですか?」と質問しても正確に答えられた患者は今まで一人もいません。情けない話とは思いませんか。

2.LDLコレステロールは何を予防する?

 医師が薬を飲む理由をきちんと説明していないのも問題ですし、患者も処方されるままに自分がどんな病気を予防するために飲んでいるか無関心なのもまた問題です。長く飲み続ける薬については、何のために飲むのかはっきり記憶しておく習慣をつけましょう。
 LDLコレステロールを下げる薬(スタチンと言います)が予防するのは心臓の筋肉を栄養する冠動脈の動脈硬化であって、脳血管の動脈硬化ではありません。つまり、スタチンは狭心症と心筋梗塞を予防しますが、脳梗塞を予防することはできません。脳血管の動脈硬化は高血圧との関係が密接なので、血圧を下げることによって予防することができます。逆に高血圧の薬を飲んで血圧を下げたとしても狭心症や心筋梗塞を予防できません。

3.日本人のLDLコレステロールをどこまで下げるべきか?

 検診結果の用紙に書いてあるLDLコレステロール基準値70~140mg/dlという数字はアメリカ人の基準値であって日本人へは適応できません。アメリカではすべての死亡の33%が心筋梗塞死ですが、日本ではせいぜい5%です。

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アメリカ人と日本人の血液中の平均LDLコレステロール値はほぼ同じレベルです。心筋梗塞へ最も影響するのは喫煙とLDLコレステロールですから、日本人はアメリカ人に比べて同じLDLコレステロール値でも心筋梗塞をおこしにくいことがわかりますね。日本人の大規模な研究によると(NIPPONDATA)、LDLコレステロール値は男性で160、女性では180以上になると心筋梗塞死が増えるようです。

4.糖尿病や喫煙が合併すると

 ところが上記の日本人の基準値は証拠が不十分という理由でまだ日本全体に流布しているとは言えません。しかし、アメリカ人の基準値140を採用するなら成人日本人の半分程度が異常となるので、140という数字はあまりに低すぎることに間違いなく、この値は日本人にとって科学的な証拠があるとは言えません。それほど遠くない将来、日本人独自の基準値が発表になることを期待しましょう。
 少し論点が変わりますが、臨床的にたいへん重要な点は喫煙と糖尿病を合併したとき、LDLコレステロール値が正常な人でも心筋梗塞の危険性が大幅に上昇することです。そのような人たちは問答無用で90未満まで下げるべきです。いったん、心筋梗塞を発症するとわずか数日間の入院でなんと100万円(3割負担の場合)もの医療費がかかります。びっくりするほどの金額です。それに心筋梗塞を発症すると、その5%は急性期に死亡します。心筋梗塞を発症してしまうよりもスタチンという薬を早めに服薬してLDLコレステロールを90まで下げて予防すべきです。ここまで下げると大幅に発症を予防できます。スタチンは1日7-20円で確実に効果が得られるので、一生飲み続けてもせいぜい5万円程度ですから大幅に医療費を削減できます。

次回は(2018年1月)、ローカーボのLDLコレステロールやHDLコレステロール(善玉コレステロール)への効果を解説します。


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