投稿日時:2021年01月12日
灰本クリニック 灰本 元
LDL-コレステロールが高いと心筋梗塞を起こすのは洋の東西を問わない。しかし、欧米人(コーカサス人種)では100人死亡すると30人以上が心筋梗塞死であり、日本人では30人は癌死であって心筋梗塞死はわずか5人の割合である。にもかかわらずLDL-コレステロール値の正常値は日本と欧米で同じ70-140 mg/dlというのは科学的とは言えない。LDL-コレステロール値はもっぱら心筋梗塞を予防するだけのために存在するように扱われ、その結果、欧米人のデータに扇動されている。
総合的な健康への影響を見るのは心筋梗塞死だけでなく癌死や肺炎死を含む総死亡リスクで見るべきである。そのような反省を背景に、2020年デンマークの10万人追跡期間9年の研究によると、総死亡リスクがもっとも少ないLDL-コレステロール値はそれを下げる薬を飲んでいない人で140 mg/dlであった。
欧米でそうならば、心筋梗塞死が圧倒的に少ない日本人はもっと高い方がよいに違いないので日本人の論文を調べた。 LDL-コレステロールと総死亡の関係を調べた大規模コホート研究は二つしかなかった。以下の2,3がそれで、1はそれらをまとめた総説である。
1. Towards a paradigm shift in cholesterol treatment. A re-examination of the cholesterol issue in Japan. Ann. Nutr. Metab. 2015, 66, 1?116.
2. Hamazaki, T.; Okuyama, H.; Ogushi, Y.; Hama, R. Ogushi Y, Kurita Y: Resident cohort stud y to analyze relations between health check-up results and cause-specific mortality. Mumps (MTechnology Association Japan) 2008;24:9?19 (in Japanese).
3. Noda H, Iso H, Irie F, Sairenchi T, Ohtaka E, Ohta H. Gender difference of association between LDL cholesterol concentrations and mortality from coronary heart disease amongst Japanese: the Ibaraki Prefectural Health Study. J Intern Med 2010;267:576-87.
以下の図は論文1から引用した。論文2は2.2万人を11年、論文3の研究は一般住民9万人を10年追跡して、LDL-コレステロール値と総死亡リスクと関係をみている。
論文1の図からは、男(図1上)ではLDL-コレステロール値100未満で総死亡リスクが有意に高いが、100~180では上昇しない。女では120以下で上昇するが、120~180では上昇しない。論文2の図は多くの交絡因子調整した結果で、男女ともLDL-コレステロール値がもっとも低い群80未満で総死亡は増え、それ以外の80から140以上では総死亡は減っていた。ただし、男だけで140以上で有意に心筋梗塞死が増えていた。
これらの結果から、日本人の理想的なLDL-コレステロール値は男100-180、女120-180が妥当ではないか。ただし心筋梗塞予防には男性では140未満、糖尿病合併例では120以下にすべきだが、喫煙者では分かっていない。
現在のLDL-コレステロール値70-140という数字は20年近く前に決められており、現在の医学レベルから見て科学的根拠はほとんんどない。総死亡リスクから見ると、欧米に比べて日本人、とくに女性ではLDL-コレステロールをそれほど下げる必要がないことが明らかになりつつある。