投稿日時:2018年05月31日
Low cigarette consumption and risk of coronary heart disease and stroke: meta-analysis of 141 cohort studies in 55 study reports
Allan Hackshaw et al. BMJ 2018;360:j3984 | doi: 10.1136/bmj.j3984
【目的】
少量喫煙(1-5本/日)による冠動脈心疾患および脳卒中の発症リスクを喫煙量と心血管疾患との関連性に関するこれまでのエビデンスを用いて定量化する。
【デザイン】
システマティックレビューとメタ解析
【データ源】
Medlineにおいて1946年から2015年5月までに出版された参考文献を手動で検索した。
【研究選択に対する適格基準】
少なくとも50件の冠動脈疾患イベントを報告し、非喫煙者と比較したハザード比あるいは相対リスク(以後共に相対リスクと呼ぶ)あるいは冠動脈心疾患または脳卒中の発症リスクに関連した年齢別の発症率を示した前向きコホート研究を含めた。
【データ抽出/分析】
メタ解析はMOOSE(観察研究のメタ解析のガイドライン)に従って行った。それぞれの研究に対して回帰分析を用いることにより1本/日、5本/日、20本/日の喫煙量に対する相対リスクを推定した。相対リスクは少なくとも年齢で調整し、しばしば付加的に交絡因子で調整した。主な定量的評価は、喫煙量1本/日に対する過剰相対リスク(ERR: Excess Relative Risk)であり、(RR1本/日-1)/(RR20本/日-1)×100で喫煙量20本/日との対比として表され、冠動脈心疾患および脳卒中の発症リスクと喫煙量との線形の関連は肺がんで見られるように約5%であると予測された。また喫煙量1本/日、5本/日、20本/日に対する相対リスクは、メタ解析におけるすべての研究のデータをプールして解析を行うことによって算出した。性別および疾患別それぞれの組み合わせに対しては個別に解析を行った。
【結果】
メタ解析は141のコホート研究を含む55の研究報告に基づいて行った。男性では冠動脈心疾患に対する相対リスクは喫煙量1本/日で1.48、20本/日で2.04であったが、すべての研究データを用いて様々な交絡因子で調整すると、それぞれの相対リスクは喫煙量1本/日で1.74、20本/日で2.27であった。女性における相対リスクは喫煙量1本/日で1.57、20本/日で2.84であり、調整後は1本/日で2.19、20本/日で3.95であった。また、男性では喫煙量1本/日の20本/日に対する過剰相対リスク(ERR)は46%であり、様々な交絡因子で調整すると53%であった。女性での過剰相対リスク(ERR)は31%であり、調整後は38%であった。脳卒中に対する相対リスクは男性で喫煙量1本/日で1.25、20本/日で1.64であり、様々な交絡因子で調整すると、それぞれの相対リスクは喫煙量1本/日で1.30、20本/日で1.56であった。女性における相対リスクは喫煙量1本/日で1.31、20本/日で2.16であり、調整後は1本/日で1.46、20本/日で2.42であった。脳卒中では喫煙量1本/日の20本/日に対する過剰相対リスク(ERR)は男性で41%、女性で34%であり、様々な交絡因子で調整すると男性で64%、女性で36%であった。相対リスクは概して男性より女性で高かった。
【結論】
ただ1本/日の喫煙によって20本/日の喫煙者のおよそ半分といった予測していたよりもはるかに大きな冠動脈疾患や脳卒中の発症リスクが生じる。心血管疾患に対して安全な喫煙量というものは存在しない。喫煙者は冠動脈疾患や脳卒中といった重大疾患の発症リスクを有意に減少させるために減煙ではなく禁煙を目指すべきである。
【読後感想】
禁煙できない喫煙者の常套句として挙げられるキーワードのひとつが減煙だろう。20本/日の喫煙量と比較して1本/日では、心血管疾患に対する発症リスクは単純に1/20だろうと都合よく解釈してしまいがちであるが、このメタ解析の結果はその淡い期待を見事に打ち砕いた。昨今の禁煙ブームにより年々喫煙者の数は減少傾向にあるものの、たばこ産業の『2017年全国たばこ喫煙者率調査』によると、現在日本には約1400万人が喫煙しているとされ、諸外国との喫煙率の比較では未だに高い状況にある。このメタ解析の結果が更なる禁煙ブームの後押しになることを期待したいと思う。(薬剤師 北澤雄一)