投稿日時:2016年06月20日
皆さんこんにちは。今日は身近な薬である胃薬についてお話します。一概に胃薬といっても強いものから弱いものまであります。今日の話はその中でも胸焼けにとてもよく効く胃薬で、多くの医師が処方しているPPI(プロトンポンプ阻害薬)と呼ばれる薬です。具体的にはタケプロン(ランソプラゾール)、オメプラール(オメプラゾール)、パリエット(ラベプラゾール)、ネキシウム、タケキャブがあります。この薬は胃酸の出過ぎを強力に抑えて胃潰瘍の治療やピロリ菌の除菌に使います。たいへん作用が強いので効果が高い一方、長く薬を使うと様々な副作用が出てくる事が報告されています。
例えば肺炎ですが、600万人を集めて観察し22万人に肺炎が発症したときPPIを飲んでいた人とそれ以外の人で比べると、PPIを飲んでいると肺炎になるリスクが1.49倍に増えます(※1)。また13万人の閉経後女性を7.8年観察した論文では骨折(股関節の骨折は除く)がPPIを飲んでいると1.25倍に増えます(※2)。さらに17万人を5年以上観察した論文では腎機能が半分以下になるリスクがPPIを飲んでいると1.28倍に増えます(※3)。これらの論文がここ数年で出始めてきました。
上記のデータだけを見ると怖くなってしまいますが、これらの副作用はPPIを使うと胃の中の酸性度がpH1(強酸性)→pH6(中性)になり腸内細菌のバランスが崩れ、胃の中で死ななかった細菌が腸へと進入し、薬を長期服用した結果害が出ることによります。ただし肺炎に関しては飲んでいる間は常にリスクが上がっている状態になるので肺炎にならないよう、手洗い・うがい・マスクで予防をしましょう。
灰本クリニックではPPIも胸焼けによく効くので処方されますが、なるべく短期間で使う方針です。胸焼けの症状が収まってきたら一段階弱いファモチジン(H2ブロッカー)に切り替えます。ちなみにファモチジンでは上記の論文のリスク上昇は見られません。それでも不十分ならば漢方薬の麦門冬湯を加えたりします。クスリという言葉は反対から読むとリスクとなるように、作用の強い薬には、その分副作用もあります。皆さんも薬がずっと出されているからとそのままにしておくのではなく、この薬は今の自分に必要な薬なのか主治医に確認してもらうことが、いろいろな病気になるリスクを減らし自分の健康を守ることにつながると思います。(薬剤師 松岡武徳)
引用文献
1)Risk of Community-Acquired Pneumonia with Outpatient Proton-Pump Inhibitor Therapy: A Systematic Review and Meta-Analysis.
Lambert, A PLoS ONE (2015) 10: e0128004.
2)Proton Pump Inhibitor Use, Hip Fracture, and Change in Bone Mineral Density in Postmenopausal Women Results From the Women’s Health Initiative .
Gray,SL Arch Intern Med。 (2010) 3:765-771.
3)Proton Pump Inhibitors and Risk of Incident CKD and Progression to ESRD.
Yan Xie J Am Soc Nephrol 2016 Apr 14