患者背景:70代 男性
発見の経緯:春日井市の検診レントゲンで肋骨に重なる陰影が見つかりました。
胸部CTの所見と病変の特徴:CTではその場所に異常はありませんでしたが、左肺の上葉(図1)と下葉(図2)、右肺の中葉(図3)と下葉(図4)などにさまざまな大きさの淡いスリガラス様結節(ground glass nodule 医学用語で GGNと呼びます)を複数認め、いずれも原発性肺癌を強く疑いました。これらの癌はレントゲンでは写っていなかったので、CTを撮影することで偶然見つかったわけです。
経過: A病院呼吸器外科では手術適応と診断されました。すべてを一度に切除することは困難なので、大きい癌から段階的に手術することになりました。淡い小さな肺癌は、何年もかけて大きくなり転移もしにくいことがわかっています。はじめに右肺下葉の一番大きな癌(17mm)(図4)を縮小手術で切除し、5年後に左肺下葉の癌(図2)を再度縮小手術で切除しました。患者さんはすでに80代半ばを迎えましたが、10年経過した現在、呼吸困難も無くお元気にお過ごしです。まだ小さな病変はいくつか残っていますが、切除が必要な大きさまでは増大しておらず経過観察中です。なお患者さんは次の手術を希望されていません。
確定診断:同時性多発肺癌
解説:スリガラス様の淡い肺癌が複数見つかる患者さんは近年少なくありません。以前の標準的な治療法は、肺葉と周囲のリンパ節を大きく取リ除くものでした。両方の肺に複数の癌が存在する場合には治療が困難と判断され、手術適応になりませんでした。一方、癌そのものが小さく転移が無ければ癌とその周囲を小さく切除する手術もあります。それが最近発展した縮小手術で、正常な肺をより多く残せるため呼吸機能の低下も少なく、二度目の手術も可能になります。大きくとる肺葉切除と縮小手術とでは予後が変わらないとの研究結果が最近報告され、スリガラス様の淡い肺癌の患者さんには手術は縮小手術が標準的になっています。