投稿日時:2019年01月21日
ここ数年、数週間の長引く咳で受診する患者さんが増えています。他の医院で抗生剤や吸入薬を処方されたにもかかわらず咳が改善しない患者さんが増えている印象があります。
咳は3週間までの「急性の咳」、8週間までの「遷延性(せんえんせい)の咳」、8週間以上続く「慢性の咳」に分類されます。期間が短ければ短いほど感染症に伴う咳が多く、長ければ長いほど感染症以外の原因(例:タバコによる肺気腫など)が多くなります(下図参照)。当院で増えている咳は「遷延性の咳」に該当し、薬が効きづらく、医師にとっては厄介な症状です。今回はこの「遷延性の咳」についてお話します。
(咳嗽に関するガイドライン第2版より抜粋改変、日本呼吸器内科学会)
遷延性の咳は、
などがあります。症状別にまとめたので、ご自身の咳がどれに近いか当てはめてみてください。
◆寒暖差や乾燥に伴う咳(=乾燥咳)◆
寒暖差の大きい秋から冬、冬から春にかけて、暖房が入って乾燥しやすい秋から冬に多くなります。就寝前後に悪化します。患者数が最も多く当院では「乾燥咳(かんそうせき)」と呼んでいます。喉がイガイガして咳が出ますが痰はわずかです。西洋医学の咳止めだけではなかなか改善せず、当院では漢方のエキス剤を併用したり、それでも改善しない場合は漢方の煎じ薬を処方しています。
◆咳喘息◆
喘鳴(ゼーゼー)のない咳のみの喘息のことです。春と秋に多く、未明から早朝の悪化(横になれないほどの咳)が特徴です。ステロイドやβ刺激薬の吸入が有効で、β刺激薬(メプチン)の吸入前後の肺機能を測定すると診断に近づけます。喘息検査を行わずにステロイド吸入薬が処方されている場合がありますが、ステロイド吸入薬は咳喘息以外の病気には無効どころか有害です。
◆羽毛布団、冷暖房機や加湿器のカビのアレルギーによる咳◆
冬に羽毛布団に変えた直後、冷暖房や加湿器の切り替え時期に起きる咳です。詳細な問診で診断できます。軽症であれば原因の除去(例:羽毛布団を使用しない。加湿器を掃除する)だけで改善しますが、レントゲンやCTで肺炎まで進行(過敏性肺臓炎)していると入院治療が必要となり、専門病院に紹介しています。
◆肺癌による咳◆
肺癌は増大進行していく過程で気管支が刺激されたり、狭くなって咳が現れます。中年以降で咳が一月以上長引けばレントゲンやCTによて癌でないことを確認するのが無難です。
当院の肺癌に対する取り組み
◆風邪の後の咳◆
風邪や新型コロナウィルスの感染がきっかけ。咳の期間は比較的短く、自然に治癒するため多くは問題になりません。症状が不快であれば咳止めで治療します。
◆マイコプラズマ感染症による咳◆
発熱があって急性気管支炎や肺炎を起こします。マイコプラズマは子供から大人に感染することがほとんどで、患者さんの数は多くはありません。抗生剤が有効ですが、抗生剤には腸内細菌(善玉菌)を乱すという重大な副作用があるため、胸部レントゲンやCTで診断が確定したとき以外は使用しません。
◆鼻水に伴う咳(蓄膿症やアレルギー性鼻炎)◆
鼻汁が鼻の後方にたれて喉を刺激して咳が出ます。仰向けで鼻汁が後方に垂れやすいため、特に就寝前後に悪化します。鼻炎なら抗アレルギー剤がよく効きます。一方、蓄膿症(=慢性副鼻腔炎)の診断は難しく、副鼻腔のCT検査が必須です。レントゲンだけでは確定診断できません。当院では西洋医学と漢方を併用することで治療効果を高めています。内視鏡手術が必要な場合は大学病院へ紹介します。
◆胃液逆流の咳◆
胸やけやみぞおちの痛みなど食道の症状を伴います。胃酸を抑える胃薬が有効です。当院では漢方のエキス剤も併用して治療効果を高めます。
◆ストレス咳◆
多くはストレスで悪化します。緊張する場面(会話や電話など)で咳が止まらなくなります。休日に症状が改善することもあります。西洋医学の咳止めは無効で、漢方がある程度は効きます。
このように遷延性の咳には多くの原因があり、検査方法や治療法が異なります。当院では看護師や医師が詳細に咳の問診をとり、必要に応じて胸部レントゲンで癌などの重大な病気がないか確かめ、肺機能検査(気道可逆性試験)を行って喘息かどうか診断しています。遷延性の咳は西洋医学の咳止めだけでは効果が乏しく、漢方のエキス剤との併用を行っています。それでも改善しない方には漢方の「煎じ薬」まで使えば7-8割の患者さんは改善しています。通常の薬が効かない長引く咳でお困りの方はご相談ください。