投稿日時:2020年05月23日
灰本 元
塩分摂取は血圧を上げるので脳梗塞や脳出血が増えることは昔からよく知られています。わたしが開業した頃(1990年)平均塩分摂取量は一日14g、東北地方では20gも摂っているという新聞記事を読んで驚いた記憶があります。減塩運動が功を奏して最近の日本人は10~11gに減っています。一方、欧米では7g程度です。しかし、日本食には高塩分という弱点があるにもかかわらず、日本は世界でも有数の長寿国であり欧米人から見て日本食はhealthy として有名となっています。わたしはかつて塩分という弱点を除けば日本食は最強と信じていましたが、塩分が弱点というのは本当でしょうか?
その答えは国立がんセンターの研究(JPHC研究)にありましたので紹介します。2010年にアメリカ臨床栄養学会誌に掲載されました。
日本の一般住民7.8万人(45歳~74歳)を約8年追跡したところ、癌が4500人、脳心血管障害が2000人発症しました。発症した人と発症しなかった人の塩分摂取量とその由来食品の摂取量を統計的に比べてみると、塩分摂取量が増えても癌や脳心血管障害(脳卒中と虚血性心疾患)の発症とは関連がありませんでしたが、塩分がもっとも少ない人7.8gに比べてもっとも多い人17.3gでは脳卒中が2割も増えていました。
ところが、塩分が多い食品別に詳しくみると、魚の干物を多く食べるほど虚血性心疾患は25%も減っているのですが、大腸癌の発症は逆に増えています。魚卵の塩漬け(たらこなど)の摂取は、癌とくに胃と大腸癌発症を増やし、漬け物も胃癌発症を増やしています。
複雑ですね。たとえ塩分が多い食品といえどもすべての病気に悪いのではなく、ある病気を増やすが、ある病気を減らすというのが科学的な真実です。
Consumption of sodium and salted foods in relation to cancer and cardiovascular disease: the Japan Public Health Center–based Prospective Study
(癌や脳心血管障害と関連したナトリウムと塩辛い食品の摂取)
Ribeka Takachi, et al., Am J Clin Nutr 2010;91:456–64.